1. 子宮頸がんとは
2. 子宮頸がんワクチンの効果
3. 子宮頸がんワクチンの副作用リスク
5. 子宮頸がんワクチンはいつ受ける?
女性の膣の奥には「子宮」という女性にとって重要な、出産を担う臓器があります。その子宮の出入口の子宮頸部にできるがんが子宮頸がんです。
子宮頸がんは20代~30代の女性がかかるがんの中で最も多く、近年30~40代の女性に増えています。子宮頸がんにかかると将来の妊娠・出産にも影響します。
子宮がんはヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染が原因であると判明しており、その他のがんと性格が異なることが特徴です。ヒトパピローマウイルスの感染を予防することによって、子宮頸がんの予防にもつながることが分かっています。
子宮頸がんを予防するためには、HPVワクチンを接種してHPVに感染しないことが大切です。
子宮頸がんは、ヒトパピローマウイルス(HPV)というウイルス感染が原因です。
HPVは自然界に非常によくみられるウイルスであり、主に口腔内粘膜や生殖器皮膚、粘膜といった上皮の細胞内に多く存在します。
HPVが膣の奥にある子宮頸部への感染をきたすことによって子宮頸がんになるとされていますが、感染してすぐに発症するわけではありません。数年~数十年間、子宮頸部の細胞内に持続感染することで子宮頸がんを発症します。
また、HPVは100種類以上ありますが、その中でも子宮頸がんの発症に関与するウイルスはわずかです。
中でも最も発症を誘発する可能性の高いものはHPV16型と18型です。
日本人の場合は、子宮頸がんを発症した60〜70%の方に16型または18型の感染が認められています。残り30~40%には他の型のHPVが関与しており、その他にも、31型・33型・35型・45型・52型・58型は子宮頸がんリスクが高いとされています。
ただし、HPV感染していても、子宮頸がんになりやすいHPVでなければ子宮頸がんになるリスクは高くありません。
実際に、細胞に異常がない女性のうち10~20%程度の方はHPVに感染していると報告されています。
HPVに感染する原因のほとんどが性交渉(セックス)です。
HPVは感染しやすいウイルスで、ほとんどの女性および男性が生涯のうちに感染します。年齢層としては、性行動が発生した後の10代後半から20代の成人若年期にHPV感染している可能性が高いです。
生涯のパートナーが多ければ多いほど、感染率は高くなると考えられています。
50~80%の女性が生涯で一度はHPVに感染するとされていますが、その多くは一時的な感染で、様々な免疫が応答して体内から自然に排除されるのが一般的です。
そのため大多数のHPV感染は症状を伴わず、70%が1年以内に消失し、約90%が2年以内に消失します。
子宮頸がんワクチンはHPV感染症を防ぎ、子宮頸がんの発病などを予防するワクチンです。
作用機序としては、感染力のない粒子を投与することによって、HPVの抗体が子宮頸部粘膜に滲出され、HPVの持続的な感染を予防するものです。
HPVの持続感染が子宮頸がんの発症につながるため、持続感染を予防することで、子宮頸がんを予防する効果が期待できます。
参考:サーバリックス
さらに、「公益社団法人
日本産科婦人科学会」の調べによれば、子宮頸がんワクチンには2.2%の感染率を0.1%に下げる効果が認められています。
ただし、ワクチンを打ったとしても子宮頸がんを必ず予防できるわけではないため注意が必要です。20歳を過ぎたら子宮頸がんの早期発見・早期治療のために、定期的に子宮がん検診を受けるようにしましょう。
子宮がん検診について詳しく知りたい方は、以下のページもあわせてご確認ください。
子宮がん検診
子宮頸がんワクチンの効果が持続する期間は、ワクチンの種類によって異なります。
ワクチンの添付文書によれば、サーバリックスであれば初回接種から9.4年間、ガーダシルであれば初回接種から約6年間持続するとされています。
また、半年に3回ワクチンを接種することで、終生の免疫となる可能性が高いです。
インフルエンザワクチンなどとは異なり、毎年打つ必要がありません。
性交渉経験がある方でも、子宮頸がんワクチンの効果は期待できます。
ワクチンを接種すれば、自然獲得できる免疫力以上の免疫効果が期待でき、新たに侵入するHPVの感染対策につながるためです。
ただし、すでに子宮頸部に感染しているHPVを排除する治療薬ではないため、現存しているHPVによる子宮頸がん発症を予防することはできません。
また、現状の医学では、HPV感染を治療する方法がありません。
子宮頸がんを防ぐためには、HPVに感染する前の防御対策として、HPVワクチンを接種しておくのが望ましいとされています。そのため、性交渉を経験する前、つまり主に中学生前後にワクチンを接種しておくことが重要です。
日本においても、小学校6年から高校1年生の時期に定期接種として、子宮頸がんワクチンの接種が推奨されています。
子宮頸がんワクチン接種をお考えの方は、お気軽にご相談ください。
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ネットや一部メディアが「クララ病」などと揶揄して煽ったことで、副作用について心配している方も多いのではないでしょうか?
HPVワクチンに限らず、ワクチンを接種すると接種した部位が腫れたり痛んだりすることがあります。
これは体の中でウイルス感染を防御する仕組みが働いているために起こる症状です。通常は数日程度で症状が治ります。
子宮頸がんワクチン接種による主な副作用の症状としては、以下が考えられます。
頻度 | 症状 |
10%以上 | 注射部位の痛み、赤み、腫れ |
1~10%未満 | 注射部位のかゆみ、内出血、不快感、頭痛、発熱、悪心など |
1%未満 | 手足の痛み、腹痛、下痢など |
頻度不明 | 疲労感、失神、筋痛・関節痛など |
ガーダシルおよびシルガード9の添付文書より
子宮頸がんワクチンには上記のような症状を引き起こす可能性がありますが、他のワクチンと比べて発症頻度が特別高いわけではありません。どのワクチン接種にも起こり得る症状で、発生頻度も大きく変わるものではありません。
なお、子宮頸がんワクチンには稀に重い症状を発症する報告もあり、具体的には以下のとおりです。
病気の名前 | 主な症状 | 報告頻度 |
アナフィラキシー | 呼吸困難、じんましんなどを症状とする重いアレルギー | 約96万接種に1回 |
ギラン・バレー症候群 | 両手・足の力の入りにくさなどを症状とする末梢神経の病気 | 約430万接種に1回 |
急性散在性脳脊髄炎(ADEM) | 頭痛、嘔吐、意識の低下などを症状とする脳などの神経の病気 | 約430万接種に1回 |
複合性局所疼痛症候群(CRPS) | 外傷をきっかけとして慢性の痛みを生ずる原因不明の病気 | 約860万接種に1回 |
日本産科婦人科学会HPより
ワクチン接種後に見られる副反応の症状については、接種との因果関係を問わず、専門家によって定期的に分析・評価されています。
CRPS(複合性局所疼痛症候群)とは、慢性の痛みを生ずる病気です。
日本では2009年にワクチン接種が可能になった数年後、一部の女性に全身に起こる痛みや精神的症状を「クララ病」などと揶揄して、ニュースなどメディアが大々的に取り上げました。
その結果、「薬害による脳障害などではないか?」という疑いが発生し、2013年4月に定期接種が始まったものの、同年6月に、厚労省によりワクチン接種の積極的勧奨の中止が発表されています。
定期接種が中止になったわけではありませんが、世間では「打ってはいけないワクチン」として認知され、日本全国の接種が一旦停止の状態となりました。
しかし、2017年11月の厚労省の専門部会で、HPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」と、HPVワクチンとの因果関係を示す根拠は報告されていません。
なお、日本産科婦人科学会など各種学会が厚労省に積極的勧奨の再開の訴えを発信し続けたことで、厚労省の専門部会は2022年4月よりHPVワクチンの積極的勧奨の再開を決定しました。
子宮頸がんワクチンが原因で不妊になるといった根拠はありません。
根拠となる文献あるいは疫学的報告がなく、子宮頸がんワクチンと不妊との因果関係は示されていません。
子宮頸がんワクチンは、筋肉注射のため、皮下注射と比べて痛みを感じる可能性があります。
また、子宮頸がんワクチン接種の副作用の症状として、10%以上の方が注射部位の痛み、または赤みや腫れを伴います。
しかし、子宮頸がんワクチンが特別痛いというものではありません。その他のワクチン接種と同程度の痛みと言えます。
ワクチン接種後、副反応が起きた時は全国85医療機関に設置されている、診療相談窓口を利用できます。
診療相談窓口は、ワクチン接種後に何らかの症状が現れた方のための窓口です。全ての都道府県に設置されており、厚労省の公式ページより協力医療機関を確認できます。
副反応を感じたらまずはかかりつけ医を受診し、協力医療機関の受診について相談してみてください。
現在、日本国内で使用可能なHPVワクチンは3種類あり、それぞれの違いは次の通りです。
価数(獲得免疫の型番) | 報国内販売年月日 | 定期接種 | 当院での採用薬剤 | 料金 | |
サーバリックス | 2価(16、18) | 2009年 | ✖ | 採用なし | - |
ガーダシル | 4価(6、11、16、18) | 2011年 | 〇 | 採用なし | 1回17,600円(税込) もしくは公費負担(無料) |
シルガード9 | 9価(6、11、16、18、31、33、45、52、58) | 2021年 | 〇 | 採用あり | 1回30,800円(税込) もしくは公費無料(無料) |
3種のワクチンにおいて、副作用に大きな差はありません。
各ワクチンの主な違いは、免疫を獲得できる価数です。カバーしている型番が多ければ多いほど、予防効果は高いと推定されます。
ここからは、それぞれのワクチンの詳細について見ていきましょう。
サーバリックスは、最初に発売された2価の子宮頸がんワクチンです。
サーバリックスの接種で獲得できる免疫の型番は以下の2種類です。
日本では定期接種として国内販売されていますが、現在世界の主流は9価のワクチン「シルガード9」です。
そのため、現在ではほとんどの施設でサーバリックスが使用されていません。当院でもサーバリックスの採用は中止しています。
ガーダシルは4価の子宮頸がんワクチンです。獲得できるHPV型の免疫は以下の4種類です。
ガーダシルは2価のサーバリックスとは異なり、HPV6型・11型も入っており、尖圭コンジローマの予防に対応しています。
また、ガーダシルは定期接種が認められている子宮頸がんワクチンです。
2022年1月現在、日本では9価のワクチンの定期接種が認められていません。そのためガーダシルが定期接種としての位置づけとなっています。
シルガード9は9価のワクチンで、獲得できる免疫の型番は以下の9種類です。
シルガード9は2021年に10年ぶりに発売された薬剤で、他の種類と比べて多くのHPV型をカバーしています。
2022年1月現在、日本で国内販売が承認されたばかりのため定期接種としては承認されていません。シルガード9の接種はどの世代においても全て自費となります。
ただし、日本人は外国人と比べて16型・18型以外での型番による子宮頸がんの発症が多いとされています。そのため、シルガード9は日本人に適している子宮頸がんワクチンと言え、より子宮頸がんの発症を予防できる可能性が高いです。
当院ではシルガード9の接種を行っております。接種を検討されている方はお気軽にご相談ください。
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HPVは、性交(セックス)によって感染し、数年~数十年の持続感染を経て子宮頸がんを発症します。
近年のデータでは20年前と比べて、若い世代が子宮頸がんを発症していることが明らかとなっています。
子宮頸がんを予防するためには早い段階でのワクチン接種が望ましく、セクシャルデビュー(初交)前に接種を完了する方がより有効です。
また、シルガード9・ガーダシルの添付文書によると、接種開始は9歳以上と下限はあるものの、年齢の上限は記載されていません。
さらに、全世界の情報をまとめた「米国疾病管理予防センター(CDC)」によると、26歳までの女性に対しては全ての人に接種が推奨されています。
27歳から45歳までの女性に対しては、効果は期待できるものの、そのすべての人に接種されるべきではなく、そのリスクアンドベネフィットを考慮して接種をしてもよいと判断されています。
そのため、当院でも45歳までの女性にはワクチン接種をおすすめしています。
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既婚者だから打った方が良い、未婚者だから打たなくても良いということはありません。
確かに、既婚者で一人のパートナーとの性交渉に限定される場合、新たなHPV感染の可能性は低いと考えられます。そのため、未婚者と比べてワクチン接種の意義は低くなると言えるでしょう。
しかし、過去の性交による自然感染で得られた免疫力(獲得抗体価)は低いため、既婚者でも過去の自然感染が少ない・弱いようであれば、ワクチンにより以後の新たな感染予防に有効です。
ワクチンが有効かどうかは個々のライフスタイルによる影響もあるため、既婚か未婚かでワクチン接種すべきか判断できるものではありません。
日本におけるワクチン接種率は、年代によって大きく異なります。
1994〜1999年度生まれの女性は、公費助成当時の接種対象であったため、HPVワクチンの接種率は70%となっています。
しかし、2013年4月に厚労省がワクチン接種の積極的接種勧奨による定期接種が始まった直後、ワクチン接種者のごく一部の方に健康被害の疑いがあるとメディアが発信しました。
その結果、2013年6月に厚労省がワクチン積極的接種勧奨の中止が発表され、2000年度以降生まれの女性のワクチン接種率が低下。2002年度以降生まれの女性の接種率は1%未満という現状です。
諸外国では2000年ごろから子宮頸がんワクチンを国主導で促進しており、ワクチン接種が普及した一部の国においては、子宮頸がんが減少傾向に転じ始めています。
それに対して、日本ではワクチン普及がストップしているという経過があり、諸外国と比べて子宮頸がん発症率が明らかに増加傾向に転じていることが危惧されています。
子宮頸がんワクチンは、定期接種であれば無料で受けられます。定期接種の対象年齢は、小学校6年生から高校1年生までの女児です。
お住まいの市町村で定期接種であることをご確認の上、婦人科でご相談ください。
対象年齢以外の方のワクチン接種は基本的に自費診療となります。
ただし、厚労省の接種勧奨中止にあたる時期に中学生であった場合、無料期間の延長措置に該当する可能性があり、条件を満たせば定期接種を受けることが可能です。
また、厚労省はワクチン接種の救済措置として、ワクチン接種の機会を逃した1997~2005年度生まれの女性に対し、無料接種を受けられる機会を設ける方針であることがわかっています。措置期間は2022年4月から3年間の予定です。
なお、当院では9価のHPVワクチンを自費診療で行っており、費用は1回約3万円です。
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ここからは、子宮頸がんワクチンに関するよくある質問について回答していきます。
HPVワクチンは3回の接種が必要です。
ガーダシルとシルガード9の一般的な接種スケジュールは次の通りです。
6ヶ月間のうちに3回の接種を受ける必要があります。
1回打っただけの効果、および2回打っただけの効果の減弱程度は不明です。接種回数は1〜2回ではなく、3回打たなければ正しい効果が期待できないとお考えください。
参考:HPVワクチンに関するQ&A
子宮頸がんワクチンを打つ場所は、ほとんどの場合肩です。
子宮頸がんワクチンは全て海外薬品会社での生産を輸入したものです。海外の薬品の使用においては肩の筋肉に打つことが多いため、肩への筋肉注射における効果・副作用のデータしか存在しません。
同時に、皮下注射でも同等の効果が期待できるといった根拠のあるデータもありません。
大規模試験のデータとは異なる使用方法では、効果・副作用の内容が変わる可能性があることから、基本的に肩への筋肉注射となります。
2017年11月の厚労省の専門部会では、HPVワクチン接種後に報告された「多様な症状」と、HPVワクチンとの因果関係を示す根拠が報告されていません。
慢性の痛みや運動機能の障害といった「多様な症状」は、機能性身体症状と考えられるとの見解が発表されています。
また、その根拠として以下2つのデータがあります。
2016年12月、厚労省研究班の全国疫学調査の結果が報告され、HPVワクチン接種歴のない女子でも、「多様な症状」を呈する人が一定数存在することが報告されています。つまり、「多様な症状」がHPVワクチン接種後に特有の症状ではないということです。
ほぼ同時期に名古屋市で行われたアンケート調査(名古屋スタディ)では、24種類の「多様な症状」の頻度が、HPVワクチンを接種した女子と接種しなかった女子で有意な差がなかったことが示されています。
このことから、2021年11月に厚労省の専門部会は、2021年4月よりHPVワクチンの積極的勧奨の再開を決定しました。
ワクチンを打ったからといって必ずしもがんを予防できるとは限りません。
HPVワクチンを打ったものの、HPV感染を予防できずに、結果として子宮頸がんを発症する方もいると考えられます。
ただし、ワクチン接種によってがん発症の可能性が低くなることを証明されているのも事実です。
より子宮頸がんの発症リスクを下げるためにはワクチン接種を受けるべきと言えます。
子宮頸がんはがんの中で唯一、ワクチンによって発症を減らせるがんです。
注射部位の痛みや赤みといった副作用を起こす可能性はあるものの、子宮頸がんの発症リスクを大幅に低減させる効果が期待できます。
日本では、一度HPVワクチンの積極的勧奨中止となりましたが、その後も国内そして全世界的に、ワクチンの効果および安全性に関して調査・確認がされてきました。
その結果、2022年4月には積極的な勧奨再開が決定され、今後より多くの女性がHPVワクチンを受けられる環境が整うと考えられます。
婦人科医として、いち早くHPVワクチンの接種をご検討いただきたいと思っています。
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