乳腺の病気は大きく分けて以下の2種類あります。
- 良性疾患
- 悪性疾患
これらの違いは、
- 良性疾患は命にかかわることはない
- 悪性疾患はリンパ管や血管に乗って全身に拡がり、命にかかわる可能性がある
ということです。
乳房のしこりの多くは、乳がんではない良性ですが治療が必要な場合があります。ここでは、良性疾患、悪性疾患それぞれについて詳しく説明します。
良性疾患
乳房の主な良性疾患を以下の7つ紹介します。
- 乳腺症
- 乳腺炎
- 乳腺嚢胞
- 乳腺線維腺腫(乳房の代表的な良性腫瘍)
- 乳管内乳頭腫
- 乳腺の石灰化(良性)
- 葉状腫瘍
乳房のしこりや痛みを気にして、乳腺外科に診察に来る人は多いです。乳がんではない良性疾患でも治療が必要な場合があります。ここでは、上記7種類の良性疾患について詳しく説明します。
乳腺症
乳腺症とは、乳腺疾患の中で最も多く、30~40代(特に閉経前)の女性に多く見られる良性の病変のことです。以下のような多彩な症状がありますが、すべての症状が出ることは少ないです。
- 乳房の痛み
- 違和感
- しこり
- 張り
- 乳頭からの分泌物
原因としては、女性ホルモンとの関係が推定されていますが、はっきりしたことはわかっていません。乳腺症はお薬で治療する方法はありませんが、症状は徐々に軽快に向かうことが多いです。乳腺症と乳がんのしこりの区別をご自身ですることは難しいため、乳腺に異常を感じた場合は乳腺外科での診察をおすすめします。
乳腺炎
乳腺炎とは、乳腺に炎症が起こる疾患のことで、大きく分けて以下の2つに区別されます。
- 急性乳腺炎
- 慢性乳腺炎
・急性乳腺炎
母乳が詰まり、乳頭から細菌感染が起こることが原因で発生します。授乳期に主に見られる疾患です。主な症状は、乳房の張れや痛み、しこり、高熱などです。症状が初期の段階では抗生剤を服用しますが、症状が進んだ状態では、皮膚を切開して膿のたまりまで管を入れて膿を排出させる必要があります。予防として考えられるのは、乳房マッサージや赤ちゃんに母乳を飲んでもらうことです。
・慢性乳腺炎
主な症状はしこりや硬結、皮膚の発赤、びらん(ただれること)です。原因が不明な場合も多く、症状や画像所見で乳癌との区別が難しい場合は、細胞を採って確認します。症状が出たら早めに医師に相談しましょう。
乳腺嚢胞
乳腺嚢胞(乳腺のう胞)とは、乳管が拡張し中に液体が溜まることが原因で起こる疾患です。乳腺症がベースにあり、のう胞を形成することもあるのでしこりや痛みといった症状を伴うこともあります。無症状の人の検診でもおよそ20~30%に見られる疾患です。
がん化することはありませんので基本的に治療は行わず、経過観察も不要のため無処置でよいです。以下の状況によっては、針を刺し液体を抜く治療処置を行うことがまれにあります。
- しこりの大きさ
- 痛みなどの症状の有無
- 見た目の膨らみ
乳腺線維腺腫(乳房の代表的な良性腫瘍)
乳腺線維腺腫とは、10代後半から30代に多く見られる乳腺腫瘍の中では、最も頻度の高い良性疾患です。しこりの症状を感じて受診する人が多いです。原因ははっきり分かっていませんが、女性ホルモンが影響していると考えられています。
がん化はしませんので、小さな線維腺腫の場合には手術をする必要はなく、薬による治療方法もありません。しかし、しこりが大きくなった場合や乳房の見た目が変わった場合、痛みがある場合などは切除による治療を勧めることもあります。
乳管内乳頭腫
乳管内乳頭腫とは、乳頭状腫瘍が乳管内にできる良性腫瘍のことです。主に30代後半から50代によくみられる疾患です。乳頭付近の太い乳管に発生することが多く、乳頭からの出血や乳頭部付近のしこりが主な症状として見られます。
画像診断で乳がんとの区別が難しい場合には、生検を行い確定診断します。根本的な治療方法は外科手術ですが、がんでないことを確認し症状がない場合には必ずしも治療はしません。
石灰化(良性)
乳腺の石灰化とは、乳腺の中にカルシウムが沈着しておこる疾患です。明らかに良性の石灰化は、古くなった線維腺腫の間質が変性したものや異物、動脈硬化が原因となります。良性の石灰化は、悪性のものに比べて比較的大きいことが多いです。また、分布は乳管の走行と一致しません。治療も経過観察も必要ありません。
葉状腫瘍
葉状腫瘍とは、線維腺腫と同様に上皮と間質両方の増生からなる腫瘍です。良性・境界病変・悪性に分類されます。比較的まれな腫瘍で、好発年齢は線維腺腫より高く、40代に最も多い疾患です。しこりの自覚やしこりが急に大きくなる症状はありますが、痛みはありません。
2cmを超える大きさで発見され、しばしば10cmを超えることがあります。葉状腫瘍の治療方法は、良性・悪性にかかわらず外科的切除です。局所再発をすることがあり、再発を繰り返すことで悪性度が上がるため注意が必要です。
Webで予約する
悪性疾患
悪性疾患とは、乳がんのことです。悪性の腫瘍は、リンパ節に転移をすると他の部位にも転移する可能性があるため、リンパ節に転移する前の早期発見が重要です。「もしかしたら乳がんかも」と悩んでいる人は早めに医師に相談しましょう。
乳がん
乳がんとは乳腺の組織にできる悪性の疾患で、40歳代後半から60歳代後半に多いです。乳房の周りのリンパ節や骨、肺などに転移することがあります。症状は、しこり、乳房にえくぼやただれができる、左右の乳房の形が非対照になる、乳頭からの出血がありますが、痛みはないことが多いです。また、初期の乳がんには症状がないため、定期的な乳がん検診が非常に有用です。治療方法は、癌の大きさ・タイプ・転移の有無などによって、外科手術や全身治療(化学療法、ホルモン療法、分子標的治療)を選択・併用して行われます。
石灰化(良・悪性の鑑別が必要)
乳腺の悪性を疑う石灰化とは、乳管内に発生したがん細胞が壊死したことで起こる石灰沈着です。石灰化の形状・大きさ・分布を考慮し、悪性の疑いがある場合には追加の検査が必要です。乳がんの初期にできる石灰化はマンモグラフィの検査が有用です。